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しゃぼん玉











ふわふわと笑って、つかみどころがない。


私の中ではそんなイメージがある。・・・けど、
みんながあの人に対して持ってるイメージは「優しい」とか「気が弱い」とか。

私の見方が変なのか、みんなの見方が変なのか。







ティナたちの住んでいる花の芽村は夏に向けて徐々に日の光が強くなり、
時折まだ冷たい風が吹くものの、季節の変化を感じられる時期になっていた。

木々は葉の色が濃くなりはじめ、
心なしか、海から漂う潮の香りは一層強く感じるようだった。


そんな村の中を、ティナはある人のことを考えながら
ゆっくりと村の中を歩いていた。







――――― そもそも、ふわふわっていう表現がおかしいのかな。

ふわふわじゃなくて、もっとこう・・・実感がない感じ。


ふらふら?




これだ!と思った瞬間、ティナの目の前にその人物、ルーンが現れた。
足元がおぼつかず、まさにフラフラと漂うように歩いている。
ティナは思わず駆け寄って声をかけた。



「だ、大丈夫ですかルーンさん!」

「あ・・・ティナさん」


ティナに気付いたルーンは罰が悪そうに一度顔を背けたが、
何もなかったかのようにふらつかせていた体をシャッキリと立たせてみせた。


「具合悪いんじゃ・・・そうだ!ドクターに診てもらいましょうよ」

「あ、いや、そうじゃなくて」

「?」

「ちょっと・・・昨日から、何も食べていなくて」

「え!昨日からですか!?」

「部屋にこもって研究・・・していたら、食べるのが億劫になっちゃって。
 それで今から宿に食べに行こうとしてたんです」

「あ、じゃあ私も一緒に行きます!」

「えっ?」

「あ・・・あの、別に深い意味はないんですけど。奢らせて下さい」

「ええっ?でも、悪いですし・・・」

「いいんですいいんですっ。お節介だと思って受け取って下さい!」


キョトンとした顔を見せ、少し間を置いてからルーンはくすくす笑い出した。


「それ・・・フォローになってないですよ」




ほぼ無理矢理な形で、ティナがルーンの食事を奢ることになった。
昼前だったがティナもそれに便乗し、少し早めの昼食を止まり木の宿でとることにした。





「ほらほら、どんどん食べて下さいっ」


ティナの気力に押されつつルーンは言われるがまま料理を口にした。
言われるがままとは言っても、昨日から何も食べていないルーンは
むしろ喜ぶように次々と料理を口に運んでいく。



「普通はメシ奢るって言ったら、男だよな」


その二人のやりとりを見ていた宿の主人・ウェンは
何か面白いものを見つけたかのように笑い顔を作りながら言った。


その言葉を聞いて少し恥ずかしくなったティナは、ルーンの食べっぷりを見ながら
ほんのりと頬を赤くしてウェンの言葉に弁解するように付け足す。


「ほんとは手料理食べさせたかったんですけど、・・・私、超人的に料理が下手で」


力ないティナの弁解を横目でチラリと見たルーンは
食べる手を止めてティナのほうを向き、にっこりと笑って言った。


「いいえ、こうして気を使ってくれるだけで充分ですよ」



ティナは面食らったようだったが、やはり先程と同じように頬を赤くした。
そして照れ隠しに冗談をこぼす。



「これで充分、ってことは・・・そんなに私の手料理食べたくないんですか?」

「え!い、いや!そういう意味で言ったんじゃなくて、その」

「・・・・・怪しいですね」

「そ、そんな怪訝そうな目で見ないでくださいよ」



やりとりを見ていたウェンは大袈裟に笑い出し、
ティナもルーンの困惑した顔を見て堪えきれず笑いはじめた。
















「うーん」



止まり木の宿で散々食べて笑ったあとティナとルーンは宿を出て、二人して軽く伸びをした。


日差しが眩しいが、まだ暑いというほどでもない。
ちょうど良い気候だ。





「・・・じゃあ、ぼくはもう行きますね」

「え、また研究に戻るんですか?」

「まあ・・・研究というか、はい。そんな感じです」



なんとなく歯切れの悪い答えを出して、ルーンは潮の香りのする方向を見た。
その方向には、きらきらと輝く海が見える。

すると、すぐにティナのほうを向いて改めて食事のお礼を言った。


「ありがとう、ティナさん。おかげで助かりました」

「あ、いえ!こちらこそ楽しかったですから・・・」

「それじゃあ、ぼくはこれで」



ルーンはにっこりと笑ってティナに軽く手を振り、背を向けて帰路についていった。







そんなルーンの背中を見て、ティナはふと、確信した。





あの人は、しゃぼん玉みたいだ。




しゃぼん玉みたいにフワフワと近くを漂って、
でもちょっと目を離すとすぐ遠くに行ってしまう。

すぐどこかに行ってしまう。



・・・本当は、近くにいるのに。





今だってそうだ。


何を研究してるのか、なんて聞けばすぐ分かるのに何故か聞けない。
聞きたいと思うときは近くにいない。


走って追いかけて、聞きに行けばいいのに。



なんでだろう。






















ティナは朝早くから、いつものように少し離れた場所に建っている
動物小屋へ動物たちの世話をしに家を出た。


持ち物を確認しながら前を見ずに歩いていると、
急に視界に虹色のものがふわり、と入ってきた。





しゃぼん玉・・・?




ぱっと顔を上げると、いつも通る小川の橋で
ルーンがなにやら機械を使ってしゃぼん玉を作っていた。
ティナはルーンに小走りで近づく。





「ルーンさん!」

「やあ、ティナさん」

「なんでまた、しゃぼん玉を・・・?」

「うん。それが・・・ぼくにも、分からなくて」

「?」

「いつもだったら、何か目的があって初めて物を作るんだけど」

「・・・これは、違うんですか」

「初めてなんですよ。こんなことって。目的もないのに何かを作るのは」



ティナはなんとなく、他人事には思えないような気持ちでルーンの話を聞いていた。




「これは、誰かを思い浮かべてたら・・・できたんですよ」

「え・・・それって、」


ルーンは機械にやっていた目をティナに向けて真面目な顔をしてみせた。
どうやらティナの答えを促しているようだった。

ティナもそれを感じ取ったのか、少したじろぎながら続けて言う。



「ルーンさん、ですか?」




その答えを聞いて、ルーンは微かに笑った。



「ぼくですか?でも・・・」

「でも?」

「ぼくよりも、しゃぼん玉みたいにふわふわ漂ってる人、知ってますよ」

「勿体ぶらずに教えて下さいよ〜っ」

「それは」














キミだ。






分け隔てなくみんなと仲が良くて、
色々な人と話しているところをいつも目にするけれど

どこか掴みどころがなくて気がつくと一人になっていて、いつの間にか居なくなって。



なんだか、しゃぼん玉みたいだって、思ったんだ。












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〜ちょいとあとがき〜

ルーンって掴みにくいキャラだなあ、と思いしゃぼん玉と重ねてみました。
ティナがそう思ってるように、ルーンもティナのことを
しゃぼん玉みたいにフラフラ漂ってる人だなあ、なんて思ってるんじゃないかと。
みんなの友好度上げようと必死ですから、ティナちゃん(生々しいからやめれ)
個人的にはちょっと新鮮なカップリングでした。