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8:『ちょっとずつ』







真っ青な空。

雲一つない・・・・・いや、あっちに一個あるな。
こうやって空を見上げてると、急に地面と空が近くなってく感じがする。



私は今、牧草地に寝っ転がっているのだ。
かえでと一緒に牧草の柔らかさを体験している。
ただ、肌に触れるとくすぐったいっていうのは難点だけどね。



今、私の片手にはあのサンゴのブローチがある。

これを太陽に透かして、色んなことを考えてた。






「どうしたの?折り入って相談なんて。」

「最近ね〜・・どうも調子悪くてさ」

「えっ!具合悪いんじゃない?風邪でもひいた?」

「いやいや、そんな感じじゃないんだけどさ」


と相談に乗ってもらっているのは、お隣さんのエレン。
牛を1頭買いに来たついでにお茶にお呼ばれされたので、この青空牧場のチーズケーキを
囲んで相談中という訳だ。それにしてもここのチーズケーキは美味しいなぁ。



「・・・で、体のことじゃないなら何なの?」

「うん、それがさ。ひとつのことしか考えられない、というか何というか・・・
 そのこと考えるとこの辺が苦しくなって、食欲なくなっちゃうしさー」

「ふーん。で、それが何なのか自分でもよく判らない、と。」

「え!何で判るの?」

「ふふ、ティナちゃん見てれば判るよ。その『ひとつのこと』って・・・シンくんのことでしょう?」

「す、すごいね!エスパーエレンだ」


ここでエレンにデコピンされた。


「もー・・・とんだドンちゃんだね、ティナちゃんは。」

「へへへ・・って何が?」

「だから!それは俗に言う『恋』ってやつよ」

「・・・・・・は?」

「ここまで来たらもう2度は言わせないでね。」



そこで会話が終了したところで、奥で道具の整理をしていたブルーがずっこけた。
エレンがそれに気付き、ブルーの傍に行って肩をポン、と叩いて何やらヒソヒソ話をした。
するとブルーは誰から見ても判るような落ち込み具合で牧草地の様子を見に外へ出ていった。



「どうしたの?ブルー」

「ううん、ちょっとね。だから諦めろって言ったのにね〜」

「?」

「ん、こっちの話よ。」







今思い返してもあれが何だか判らない。

・・・ただ、私・・・・・



シンに恋してるっていうの?



まさか自分にこういう話題が降ってくるとは思わなかった。ましてや、この村では。


前の生活ではそんなのどうでも良かったしね。
自分の周りで結婚していく人もいて、結婚式とかに呼ばれて2人の幸せそうな顔を見たけど・・・
あれで本当に幸せになれるんだろうか、と自分1人疑問に思ってたっけ。


そんな私が、恋。

そりゃ人に言われなきゃ判るはずないよ。




牧草地の日陰がだんだんと移動しはじめた。私の体も、日に照らされはじめている。



「・・・?」



どきどきどきどき、する。

このサンゴのブローチを見ると、尚更。


これ、止まりそうにないよ。どうしたらいいの?





「ワンッ」

「へ?」


急に静かに寝ていたかえでが起き上がり、私の手の中にあったブローチを
ぱくっとくわえてどこかへ走り出してしまった。


「ちょ、ちょっと待ってよかえで!!それはシンからもらった大事な・・・・」




大事な、何?



う・・・自分の言った言葉に赤面したのって初めてかもしんない。

・・・・・・・とりあえず、逃げ出したかえでを追おう。






「かえで〜っ、いたら返事してよー」

・・・って、する訳ないよね。私ここ2、3日でバカになっちゃたのかも。
こないだだってシンと釣りしてたら急に眠気に襲われて、そのまま眠り込んじゃって。
気付いたら自分の家のベッドだしね。


恥ずかしいから、あえてあの間何があったかシンにはまだ聞いてないけど。
というか、聞く隙を与えてくれないのもある。

こないださー、と話題を持ちかけるとふいっと話題を変えるし。
それってそれ以上聞くな、ってことだよね。・・・私、また何かやらかしたの?





あれ?

何やらあっちの茂みで話し声が聞こえる。

もしかして・・・


「な〜、お前この椅子に座るなよっ。急にガサッと出てきてびっくりしたんだぞ?
 こっちは。っとに、しょうがねーヤツだな〜」



不満を漏らすような声だけど、ちょっと嬉しそうな感じの声だ。やっぱり、シンだよね。



「お?お前何くわえてんだ?」


あ・・・やばい。そうだった、かえでにブローチくわえられたまんま逃げ出されたんだっけ。
今でも大事に持ってるって知ったら、変に思われるかもしれない。




「そ、それは・・・っ」




あ。

思わず口に出してしまった。
そして、本人の目の前に姿を現してしまった。



私のバカ。





かえでが私に気付いて、私の近くにすり寄って来た。もう、とんだトラブルメーカーだよ、お前。

そう思いながら、かえでの口にくわえられたサンゴのブローチをさっとポケットに入れた。





「なぁ、それさ」

「え」


ば・・・・・バレバレですか。

どうしよう、さっきのエレンの言葉が頭から離れない。
『恋』なんて単語、私には性に合わないから頭の整理がついてってない。

だからこんなに顔、火照ってるんだろうか。



「持っててくれたんだな、今も」


そう言ってシンはにっこり笑った。




シンって・・・なんかずるいよ。

そんな一言と笑顔で、嬉しいって思っちゃうんだから。


私、やっぱり・・・・・・・・




「やっぱり、シンが好きなんだ」




口に出すと実感が湧いてきたのか、顔ばかりでなく全身が火照り始めた。

私、何ゆってんだ?

シンも困るよね、いきなりこんなこと言われて。

そう思ってシンの反応を確認するために恐る恐る顔を上げると・・・



真っ赤だ。リンゴみたい。


・・じゃなくて、私よりすごいことになってる。
さっきまで握りしめてた釣り竿、下に落ちてるし。




「・・・・・・」


あれ、シン、今何か言った?声小さすぎて判らなかった。






「・・・・・・・・・・・・俺も」






これって・・・・

「俺も」ってことは、シンも、私を・・・?





「おっしゃー!!!」

「?!」


急に雄叫びをあげたシンに、私もかえでも驚きを隠せなかった。


「俺、すっげー嬉しい!」


シンってば、この上なく幸せそうな表情浮かべてかえでの足を取り、ブンブンいわせた。







ああ、あの結婚式のこと、今なら判るような気がする。

お互い好きだから、あんなに幸せそうな顔をしていられたんだよね。ずっと傍にいられるから。




すると急に左手を握られ、


「ティナ!行こっかっ」

「ど・・・どこに?」

「ん〜、判んない。ってゆーか、見せびらかしたいんだよな、今のこの状況」

「・・・・・・へっ?」

「『つれづれ散歩』とでも名付けて、行きますか」

「・・あははッ、まーた変な名前付けて。私も人のこと、言えないけどね」


冗談を言いつつ、私はシンのおっきい手をぎゅっと握りしめた。









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