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11:『眩暈』







「ね〜、リオーン。そっちの方のが実ぃおっきくない?」


太陽の光が眩しかったけど、手で日除けを作って上を向きながらあたしは言った。


「もう遅い。・・・取ったぞ」


はしごに登り、あたしの代わりにこの夏大豊作のオレンジをもいで取っているのはリオン。


「ほら、受け取れ」

「わ!」


いきなりでっかいオレンジを一つ、上から投げつけられ、あたしは間一髪で受け止めた。
あんまり反射神経がいい方ではないので、よく受け止められたと思う。


「うっわー・・・でっかい。美味しそお」

「まぁな、今年はいい環境で育っているからな」

「今食べていい?」

「・・・・アホ。取れたの全部持って帰るんじゃなかったのか」

「う・・そうだよね、我慢我慢」


あたしは言われた通り、口に持っていきそうだったオレンジを収穫用のカゴに入れようとした。
そのとき、気付いた。


「あ」

「何だ?」

「オレンジって、太陽みたい」

「・・・・・・何を言うのかと思えば」

「だって急に思いついたんだもん」


カゴに入れるはずだったオレンジを、頭上で光を照らし続ける太陽と重ねた。

太陽は変わらず、あたしたちを照らす。



くらくらした。


手に持っていたオレンジを思わず地に落とす。
これで太陽を遮っていたものはなくなった。



ふと、不安が胸を掻き立てる。


何だろう。

これは眩暈が起こさせることなのか、それとも別の何かなのか。
判らないけど、嫌な予感がした。



「どうした?」

「・・・・え!あ、ご、ごめん。オレンジ落としちゃった」

「眩暈でもしたか」

「うん。・・そうだと、いいけど」

「・・・? 帰るぞ」



リオンははしごをてきぱきと片付けると、カゴを持ってすぐに帰路につくようにあたしに促した。


そこですぐに不安が無くなれば良かったのに。




結局、夜までそんな気持ちを拭いきれず、村をフラフラと歩いて忘れようとした。





今夜は月が綺麗だ。

今時、月明かりで自分の陰が見えるなんて所は珍しいだろうに、ここでは当たり前のように月で陰が作られる。

今日はちょうど満月だ。


・・・・・そういえば、満月って・・・


「何してるんだ」

「え」


最近、リオン遭遇率が高くなってきてるような気がする。
今もそうだし、こないだなんかあたしの家の周りで何回も会った。
・・・・まぁ、嬉しいことに越したことはないんだけど。


「リオン、最近よく会うね」

「居ちゃ悪いか」

「ち、ちーがうって!そういう意味で言った訳じゃ・・・」



急に月明かりで照らし出されたリオンの陰が気になった。



「ねぇ、リオン」

「・・・何だ?」

「満月の日って、よく生き物が産まれたり・・・死んだりするんだって」

「・・・・・」

「小さい頃、おばあちゃんに聞いたことがある。人も、そうなんだって」

「・・・今日、満月か」



さっきの不安が収まるどころか逆流してくる。
話しながら、あたしはリオンとの距離を縮めた。


「・・・・?」

「リオン」


あたしはリオンの手をぎゅっと握りしめた。


「リオン・・・いなくなったり、しないよね?」

「な・・・・」


いきなり言われてさすがのリオンもびっくりしたのか、戸惑いを隠せないようだった。


「いなくなったりしないよね・・・?」



馬鹿な質問だと判っているのに、まだ続ける。
不安がどうしても胸を掻き立て続けるから。

リオン越しに見える満月が、こんなに綺麗に、不気味に見えるのは何故だろう。



「・・何を言ってるんだ、バカバカしい」


ふいっとあたしの顔から急にそっぽを向き、だけど手は静かに、そっと放した。



「あ、あはは!そうだよね、何言ってんだろあたし」


笑ってごまかした。精一杯笑ったつもりだったんだけど、顔、引きつってるな。


「・・・また酒でも飲んだのか?」

「違うって、素面だって」


冗談を言ってくれる分、まだ楽かもしれない。
さっきの不安も少しは癒えた気もするし。



それから二人して家に帰った訳だけど、どうしてかリオンの横顔に陰があるように見えた。
満月のせいでもなくて、月明かりでできた陰のせいでもなくて。






その不安が的中した。


次の日、朝目が覚めてリオンの家に訪ねに行くと、そこには誰もいなかった。
いたのはケルベロスと、放牧地に放された家畜たち。


リオンに食べてもらうはずだった、ケティ直伝のオレンジケーキをぼとりと落とした。





リオン、どこ?




いなくならないんじゃなかったの?





絶対に懐かないと思っていたケルベロスが、あたしの傍へ寄って寂しそうに鳴いた。













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