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エクレア












なんとなく、そんな気はしてたのだけど。
本人の口から直に聞くと、改めて「そうなんだ」と実感することができた。




鶏を飼うようになってから一週間くらい経ったある日。
私の牧場の卵が欲しいというものだから、
・・・もちろんタダじゃあないけど、定価を決めてカールに売ることにした。
カールのケーキを試食するときに、ついでに卵を買ってもらおうと
最近は常に卵を抱えてカールのバイト先である月夜亭へ向かうのだ。

商売うまいな、なんてデュークさんにからかわれたりしたこともあった。





ティナの自宅から月夜亭への道のりはまっすぐ行けば数分もしないのだが、
海を一日に一回は見たいというティナの勝手な思いから
わざと遠回りして海の方の道を通り、月夜亭へと通っている。

つい最近のこと、海コースの道を歩いていると、職人小屋の親方たちが
せっせと建設作業を進めているところにティナは出くわした。
見たところ土地はそんなに広くなく、建物も一階建てのようで普通の家では
ないような風体であったので、新しい店でもできるのか、と
そのときはまだ他人事のようにしか思っていなかった。


いつもの夜の、月夜亭での出来事。



「こんばんわ!カール、卵持ってきたよ」

「ありがとう、ティナさん。助かるよ」

「・・・それで、今日のブツは?」

「ブツ、って変な言い方しないでおくれよ。今日はあとちょっとで冷蔵時間が終わるんだ」

「あ、じゃあできるまで中に入って色々見ててもいい?」

「い、いいけど・・・・デュークさんに怒られない程度にね」

「了解!あー今日は何だろな〜」


鼻歌まじりに厨房の方へ入っていくティナを見て、カールはくすりと笑った。


「今日はエクレアだよ」

「ほんと?!私エクレアすっごい好きなんだあ」

「一応、一般的なチョコレートで作ってみたんだ。最近じゃキャラメルとかあるみたいだけど」

「へえ・・・キャラメルも食べたい」

「あははっ、そのうち作るから待っててよ」

「でへへ。いつもカールの作るケーキ楽しみにしてんだもん」

「それは良かった!こっちも自分の舌だけじゃ分かりきれない部分もあるからね」

「ふうん?私は今んとこ、食べてきたの全部おいしいけどな」

「はは、じゃあ今までのは全部店頭に並べられるかな」


腰に手を当てて、冷蔵庫の中の様子を見ながら満足そうにカールは言った。


「あと二分ぐらいで出来上がるから、そこに腰掛けて待ってて」

「う、うん」


店頭に並べる、という現実的な言葉の響きに、ティナは少々困惑した。
カールは夢を実現するために今も頑張っているんだと、そう思うと
なんだか自分は本当に甘えた環境の中にいるのでは、と考えてしまうのだ。

ティナは自分のすぐ傍にある椅子に腰掛けると、素朴な疑問を投げかけた。


「あのさ・・・その店って、この村で開くの?」

「うん、まあね!この村はいいよね〜、なんだか時間が遅く流れてる感じがしてさ」

「・・・・・そっか」


変に落ち着いたティナは乾いた笑いを漏らすと、ふとあの海沿いにある建設中の
建物のことを思い出した。まさか、とは思ったが、カールに問いただす。


「つかぬことをお聞きしますが」

「な、なんだい?急に改まっちゃって」

「あの、海沿いに建ってるお店って・・・ひょっとして」

「・・・・・あ、バレた?」


カールは冷蔵庫へやっていた目をティナに移し、頭をかきながら少し照れた様子で続けた。


「実はちょっと前に親方さんにお願いしててさ・・来週中にはできるようにね」

「じゃあやっぱりあれって、カールのお店だったんだ!」

「うん。・・・バレバレなのかな〜、村のみんなには」


カールは苦笑いすると再び冷蔵庫の方へ目をやり、その扉を開けた。


「いい感じに冷えたみたい。それじゃあそっちに持ってくよ」

「エクレアできあがりっすか!やったあ」


目の前にエクレアが置かれるのを見てから、ティナはまた質問をした。


「それじゃあさ、お店ができたらここでのバイトはやめるんだよ・・・ね?」

「うーん・・・そうだねえ、できれば自分のお店で、自分の力で稼いでいきたいからね」






・・・・・そうなったら、月夜亭へ通わなくてもいいことになるんだ。

卵はカールのお店に直接持ってくってことになって、でもそれってなんか・・・

なんか、あからさま、だよね。



心の中で思考をめぐらせてから、エクレアを手に取って口へ運ぼうとした。



・・・・ん?



あからさま、って何だ。

何があからさまなんだろ?



ティナは口の手前まで運んだエクレアを、ピタリと止めた。

その様子を感じ取ってか、カールが不思議そうに声をかける。













「・・・ティナさん?」

「は、はい?!」

「どうしたの?手が止まっちゃってるけど。エクレアに何か問題でもあった?」

「あ、あーごめん!違うの、ちょっと考え・・・ごと・・・・」

「・・・・・?」



話題を振り切るように首を横に二、三度振ってから、エクレアをついに頬張った。


「・・・ん、おいしいっ!」

「本当に?良かった。オイラ、エクレアはあんまり作らないからちょっと心配だったんだ」

「生地は外がカリっとしてて中がもっちり。で、クリームが最高においっしいの」

「よし、じゃあこれも商品に、と・・・」


メモ書きするカールを尻目に、ティナはさっきの考え事なんか
おかまいなしとばかりにエクレアの味を楽しんでいた。
だが楽しんでいるばかりでもなく、頭ではちゃんとカールの店のことを考えていたのだ。


「ね、カール、あのお店なんだけどさ。一人で全部仕切るわけ?」

「オイラも考えたんだけどね、さすがに一人で作って売ってじゃ効率も悪いし・・・」

「そうだよねえ」

「ウエイトレスの子を一人、雇おうかと思ってるんだ」

「へえ。 ・・・・・ウエ、ウエイトレスゥ?」

「うん。オイラは厨房で作るのみ、で、雇った子に接客をしてもらおうかな〜と」







ウエイトレスってことは、完璧女の子、だよね。


その日はエクレアを飲み込んだあと、その甘さを口の中に残したまま
悶々と頭の中で考えをめぐらせつつ、ティナは店を後にした。





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