9:『花の香りに 〜温かい人〜 』
風が気持ちいい。
もう春になったんだ、と身に染みて判ることが嬉しい。
空を見上げながら背伸びをすると何だか身長が10センチくらい伸びた感じがした。
もう桜はすでに満開の時期を迎えていて、今日は絶好の花見日和になるのかな。
・・・・・なんてことを考えながら、今日ばっかりはみんなと一緒に桜を愛でて食べて飲んで
ふざけようかと思ったそのとき、桜の花びらが風に乗って舞い散った。
「わ・・・綺麗」
思わず口に出してしまった。
桜が普通に咲いてるのもいいけど、桜の散る場面もまた趣があっていい。
以前なら私はまさに「花より団子」的な考えだったけど、もう今は桜が見られるだけで嬉しくなってくる。
「・・・・・・・・あれ?」
桜並木の向こう側から、誰かがやって来るのが見えた。
朝の日差しがまだ眩しく、目を細めて見てみると・・・
「バジルさん!」
名前を言うとあちらにも聞こえたようで、私に手を振って近づいてきてくれた。
「やぁ、ただいま!・・・ただいま、と言うのもなんだけどね」
「あははっ、おかえりなさい。バジルさんっていつもこのくらいの時期に帰ってくるんですか?」
「うん、春の花の芽村は特に植物が一斉に目を覚ますからね。絶対に見ておきたいんだ」
「へ〜。花の芽村って環境がいいんですかね?」
「そうだね。・・・いつも思うんだけど、花の芽村は他のところに比べて安心感が出るしね」
「あ、それ私も思います!花の芽村って、いいとこですよねっ」
多分、私が他の村で牧場をやることになっていたら、きっとやっていけなかったろう。
「いやぁ、それにしても満開だね、桜」
「そうですねー。・・・・私、今年は自分の畑でも花を育てようかと思ってるんですけど、何かアドバイスでも・・・」
バジルさんはプラントハンターだ。植物のことに関してはプロなのだから、ここで聞いておかないことはない。
質問すると、バジルさんの目がみるみるうちに輝いていった。まるで少年のように。
「本当かい?!嬉しいなぁ、ティナさんは作物を育てるのが上手いから」
「あ、ありがとうバジルさん。それでアドバイスもらいたいんですけど・・・・」
「あぁそうだったね。とりあえず、君の所の土壌はもう少し肥えていた方がいいから、
花屋で肥料を買ってきて土に混ぜるといいよ」
「肥料、ですか・・・あ、水やりとかは?」
「1日1回で充分だよ。・・・・・そうか、ティナさんが花を・・・・」
「?」
「いや、嬉しくてね。花を見ていると、温かい気持ちになるだろう?
それはきっと、育ててくれた人が愛情込めているからなんだよ。」
そうえいば私が小さかった頃、朝顔を大事に育てていたら大きい見事な花が咲いたっけ。
それを見せたら、お母さんもお父さんもニコって笑ってくれて・・・・・
「だからティナさんのところで育つ花は幸せだよ」
「え?」
「いつも君は作物の相手をしているとき、幸せそうな顔をしてるからね。」
「いつも・・・?」
「・・・・・あ、いや。村を散策していると君の姿をよく見かけていたからね」
「それにしたって『幸せそうな顔』って・・・ちょっと間違ったら危ない人ですね」
私とバジルさんが笑いあっていると、またそよ風が吹いて桜の花びらを散らせた。
「そうだ、バジルさん」
「何だい?」
「花が咲いたら、一番最初に見せますからね。楽しみにしてて下さい」
その日の午後、私は早速花屋でムーンドロップ草の種を買い、自宅の畑に蒔いた。
何故か顔がほころんでしまうのは桜が咲いているからか、それともこの麗らかな春の陽気がそうさせるのか。
どちらにしろ私の心は、幸せな気持ちで満ちていた。
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