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11:『受けとめて』







『やだーーー!』

『・・・もう、聞き分けのない子ね』


そう言ってお母さんは、私の手をぎゅっと握り、目線を合わせて言った。


『そんなにお婆ちゃんの家に行くのが嫌?』

『だって・・・・あのいぬ、ほえるんだもん』

『大丈夫よ、もう吠えないわ。・・ね、あなた』


お父さんはストーブの様子を見ていた。
急に話題を振られてびっくりしたのか、ちょっと間を空けてから私に言った。


『もともと吠えるような犬じゃないんだよ、テンダーは』

『・・・・・でも、ほえた』

『はははっ、何かイタズラでもしたんじゃないのかい?』

『し、してないもん!』

『あなた。ストーブは・・・・?』


お母さんは大雪の日にストーブが壊れたのを心配して、お父さんに聞いた。


『ああ、・・駄目だな。直りそうにない』

『・・・そう。しょうがないわね、新しいのを買ってきましょうか』



ストーブの壊れた原因は、多分私だろう。

子供心にテンダーの首輪についていた鈴を取ってしまい、家に持って帰って振り回して
遊んでいたところ、ちょうど開いていたストーブの灯油口にガシャンと勢いよく落ちてしまったのだ。


あれで壊れた、と思ってしまった私は変に責任感を感じてしまい、
ここから少し離れているお婆ちゃんの家に行くことを拒んだ。



『それにしてもひどい大雪だな』

『チェーンは付けたけど・・・本当に行くの?』

『ああ、今日ストーブを買いに行かないと誰かさんがお婆ちゃんの家に行けなくなっちゃうからね』


ギク、と体を強ばらせた私は、お父さんの顔を見た。
お父さんは全て判っていたようで、ニコ、と笑いかけながら私に近づいた。


『電気屋さんもすぐ近くだし、早めに済ませてくるけど・・・お留守番頼んだよ、ティナ』

『私も行くわ』

『え?でもティナが・・・・・』

『・・・なにか、胸騒ぎがするの。一緒に行っていいでしょう?』

『ああ、僕は構わないけど。ティナ、一人で大丈夫かい?』


2人が私を見ている。

お父さんにせめて応えようと、私は力強く頷いた。


『・・・・うん、判った。じゃあ車、こっちまで回してくるから少し待ってて』




窓の外は吹雪に変わりつつあった。

そんな中、車庫に置いてあった車をお父さんは家の前まで持って来た後、


『お母さん、もう乗れるよー』


と玄関に来て言った。


私はその声を聞いて、お母さんと一緒に玄関までやって来た。


『財布は持った、と・・・じゃあ、ティナ。お留守番よろしくね』

『うん!』


あまりの寒さに手袋をしていたお父さんは手袋を取りながら言った。


『それにしても手がかじかんで参るなぁ』

『・・・手が、かじかむ?』

『ああ、手が寒すぎて動けなくなるってことだよ。でも大丈夫。お父さんが新しいストーブ買ってきてやるからな』


そう言ってお父さんは、私の頭にポンと手を置いた。


『いい子にして、待ってるんだぞ』

『うん。がんばってお留守番、してるね』


私の頭から手が離れ、お父さんとお母さんは玄関を出ていった。








あれから2時間は経っただろうか。

電気屋までは片道10分もあれば行けるのに、いやに時間が掛かっている。


最初は気にしなかった私も、だんだんと不安になってきた。


傍らにいたうさぎのぬいぐるみを、ぎゅっと抱き寄せる。



『お父さん・・・・・?お母さん・・・?』



帰って来るよね。

いい子にして待ってるから。






その願いも虚しく、静けさが響き渡る家の中、一本の電話の音が鳴った。


きっとお父さんたちだ、と顔をほころばせ、電話に出た。





・・・・・それは、病院からの電話だった。


お父さんたちの乗っていた車が、大雪でスリップし、ガードレールに激突したのだと言う。

そこで後続車の人が直ちに救急車を呼んで2人を病院に運んだものの、すでに2人は助からない状態だったそうだ。





一瞬、何が起こったのか全く理解できなかった。

ただ、心にある感情は・・・・・



怖い。



今から病院になんて行きたくない。



いい子にしてたよ、私。

ちゃんと、お留守番、してたよ。




新しいストーブ担いで、ニコニコして、帰って来てよ。



ウサギのぬいぐるみを、より一層ぎゅっと抱きしめる。



きっと私のせいだ。

私がストーブさえ壊さなければ、こんなことには・・・



嫌だ。怖い。


私を、


・・・・・置いていかないで。








「・・・・・ティナさん?」


はっと気が付いた。

私の額には、ドクターの温かい手が置かれていた。











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