10:『気がつけば 〜誤解を生む人〜 』
「はーなーしーて〜・・・・・」
「や〜だねっ。この後一緒に酒飲んでくんなきゃずっとついててやる」
「何をそんな子供みたいな屁理屈を・・・」
ジョーロを片手に私は奮闘していた。
いかにダンを自分の体から引き離すか、それを考えているのだ。
ことの発端は冬の感謝祭。
何気なくダンにあげたケーキが全ての原因だった。
彼は散々キザな台詞を吐いた後、私にちょくちょく会いに来るようになってきて・・・
それで、今に至る。
ああ、カブとジャガイモがあんなに遠い・・・・・
午後も予定が詰まってるし、今日はダンと一緒にお酒は付き合えないよと言っても聞かないのだ。
「勘弁してよぉ・・・」
「首を縦に振るまで放さないぜ、俺は」
・・・・何言ってんだか。
にしても、ダンの腕はしっかり私の体に巻き付いてるので身動きが取れない。
こんなとこを誰かに見られようもんなら・・・
村には噂好きの人が多いからなぁ。
絶対、広まるな。
そこで私の頭にはひとつ、疑問が浮かんだ。
「ね、ダン。何で私なんかに構うわけ?」
「あ?」
「もっといい人いるじゃない。この村に」
「・・・・んー、」
曖昧な返事を取ったので、今がチャンスだと思い、とどめを刺した。・・つもりだった。
「ほら、私ケーキあげただけでしょ?ケーキ欲しいなら来年も焼いてあげるし。だから・・・」
「ティナの」
「へ?」
「『ティナの』ケーキじゃないと嫌なんだよっ」
私は思わず、手に持っていたジョーロを地に落とした。
落としたというか、落ちてしまった。
手の感覚がなくなって。
・・・これって世に聞く、告白ってヤツですか?
それともまたからかってるだけなのかと、ダンの顔を覗いてみると・・・・
彼の黒い瞳が真っ直ぐに、私を見ていた。
ってことは、やっぱり・・そうだよね。
「ティナ、好きなヤツいんのか?」
「・・・・・え?」
やっとダンの束縛がほどけたかと思うと、次は質問攻撃に合った。
「好きな、ヤツ?」
「そ。・・・・・いるの?」
好きな人。
改まって聞かれると考えたこともなかったので、答えようがない。
・・・・・・・でも。
目を閉じて考えると・・・
あの人の顔が、浮かぶ。
優しい声、優しい瞳。
・・・ドクター。
はっと目を開けると、急に強い風が吹いた。
まだ残っている桜の花がいっせいに散るぐらい、強い風。
そしていつの間にか目の前にダンはいた。
「・・・あいつか?」
「?」
「ドクター、だろ。・・・・ま、何となく予想はしてたけど」
「・・何でそう思うの?」
「ティナ見てれば、判るって」
わ、私そんなに・・・態度に出るタイプだったのか。
思わず両手で頬を隠すと、ある言葉が脳裏をよぎった。
『こんな私に人を好きになる資格なんかない』
・・・・・そうだ。
私に、人を好きになる資格なんか・・・ない。
「ティナ?」
「・・・あ。ご、ごめん。ちょっとボーっとしちゃって」
「・・・・・・」
するとダンは、また私に抱き付いた。
「ちょ、ちょっとダン・・・・・?」
「俺、マジで好きなんだ。ティナのこと。・・・俺じゃ駄目か?」
さっきのとは全然違う、力強さを感じる。
だけど、私は・・・・・
そのとき、視界によく見知った姿が入ってきた。
「・・・ティナさん」
「ド、ドクター!あの、これは・・・・っ」
山菜取りにでも行っていたのだろう。ちょうどいいタイミングでばったりと会ってしまうとは。
ダンも知ってか知らずか、私のことをより一層強く抱きしめる。
私はどうしていいか判らずオロオロしていると、
ドクターはにこっと悲しげに笑い、私に背を向けて歩いていった。
ドクターに向かって出した手が、虚しく空を切った。
『すぐ、帰ってくるから・・・・・』
『いい子にして、待ってるのよ』
・・・・・・嫌だ。行かないで。
私を置いていかないで。
置いていかないで・・・・・!!!
ふっと意識がそこで途切れた。
ダンとドクターの慌てる声がうっすらと聞こえた。
・・・・寂しいよ。
置いて、いかないで。
頬に何か温かいものが一筋、伝った気がした。
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