1:『ひょんなこと 〜はぐらかす医者〜 』
「一体これで何度目になるんでしょうねぇ」
「・・・・・ごめんなさぁい・・・」
カルテを書きながらドクターは言った。
温厚で優しいドクターだけど、今日はちょっと嫌味っぽくなってる。
それは全て私のせいだ。
「君は無茶しすぎなんだよ。ちゃんと睡眠はとっているのかい?」
「とってますって!ただ・・・」
「ただ?」
「う、あの・・その睡眠を上回る働きっぷりをしてる、ってことでしょうか。」
そこで椅子に座っていたドクターははぁ、と溜め息をつき、くるりと私の方を向いた。
そう、ここ最近働きすぎてぶっ倒れてばっかりいたんだ。
どうも診療所が近所にあると、気が抜けるというか。
「いくら睡眠をとってるといっても、あまりに無茶な仕事をしていては体も保ちませんよ」
「だってねドクター!秋の草競馬が近いんですよっ!
もーう、これが練習しないでいられますかっ。」
「ああ、そういえばサラくんから乗馬の手解きを受けていたっけね。」
「そうそう、それで畑の仕事に牛たちの世話、牧草も冬に備えて刈っておいて・・・
もういくら時間あっても足りないくらいなのっ」
「それであんなに何回も倒れたという訳ですか・・・」
「あ、いや、それはね。えーっと・・・それより!私が話してばっかですけど、うるさかったですか?
よく友達に『黙ってろ』って言われちゃいますけど」
「いや、君の話を聞くのは好きだよ。いつも楽し・・・あ。」
そこまで話したところで、会話が止まった。
ドクターは口に手を押さえて、またくるりと私に背を向けてカルテを書き始めた。
・・・・やっぱ私うるさかったのかな。
ちょっと下向き加減になったところでマーサさんが奥の部屋から出てきて、くすくすと笑っている。
「マ、マーサさん・・・・」
「うふふふ、なぁにドクター?」
「・・・いえっ、何でもありませんよ」
そのやりとりが何だかよく判らなかった。
何の話をしてるのか聞こうとしたところでドクターに急に声をかけられる。
「いつもハーブをありがとうね。おかげで助かっているよ。」
「あ、いえいえ。喜んでもらえて嬉しいです」
「・・・さぁ、そろそろ帰った方がいい。今日のところはもう休むようにね」
何だか最後の方が機械的な感じがしたけど、お世話になった身で変に口を挟むのも
悪い気がしたし、別れの挨拶を言って私は診療所を後にした。
・・・・・ドクターには悪いけど、やっぱり乗馬の練習はするよ。
こういう勝負事には出なきゃ駄目って自分の血が騒いでるからね。
そして草競馬当日。
あんなに頑張ったにも関わらず私はビリになってしまって、さすがにドクターにあわせる顔がなかった。
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