『あたためる栗』
・・・・・前、見えない。
ティナの腕の中には山の中で拾ってきた沢山の栗が埋まっていた。
いつもより頑丈な手袋をし、イガイガした栗と対峙していると、いつの間にか大収穫を迎えていたのだ。
こんなに獲れるわけがないと思っていたティナはもちろん、カゴなんか用意してる訳もなく、
リュックに入れたらこのトゲトゲは間違いなく穴を開けるだろうと踏み、この状態になった。
実りの秋ってのは嬉しいけど・・・これはちょっと、やりすぎた。
そんなことを思いながら、ティナは千鳥足で帰路につく。
ここのところ、ケティが心配するくらいティナは働きまくっていた。
ブルーのことを忘れたい訳ではない。
むしろ、近所なのだから嫌というほど毎日顔を合わせるのだ、忘れられる訳がない。
動いていないと、逆に身が持たないような、ティナはそんな気がしていた。
栗が腕の中から一つ二つ、ぽろっと落ちた。
もうすぐで村に着くというのに、ここで無駄足を取ってはいけないとそれらを無視してティナは先に進む。
そこで既に、あることを忘れていた。
この辺りは石が多く、下を見て歩かないと絶対に転んでしまう厄介な場所。
すっかりそれを忘れていたティナは石に足を引っ掛け、バランスを崩すと見事なまでに栗をぶちまけてしまった。
「あ・・・・あ゛ぁぁー!!!」
地面に座り込んで軽い悲鳴をあげたその先には、ちょっとした坂が広がっていた。
その坂の終点にはワイナリーがある。
しかしティナはそこまで頭が回らず、ただおむすびを追いかけるネズミのように
坂を転がり降りていく栗を拾うことに夢中になっていた。
すると、ここ最近見なかった顔が急に目に入る。
「おや?上から栗と共に子猫ちゃんが」
「・・・あっ、あの!その栗・・・・・うわっ」
当然と言えば当然だ。
先程転んだ瞬間、足首でもくじいたのだろう。
坂を一気に駆け下る途中、ティナは足元のバランスを崩してその場に倒れ込みそうになった。
転ぶ瞬間、目を瞑っていたティナは一瞬何が起こったか理解できなかった。
地面についているはずの自分の体が、誰かに支えられている。
だんだんと、その正体がダンであることが判ってきた。
「ふ〜・・・ナイスキャッチ」
「ダ、ダン・・・・・」
「あッれー、やっぱケガしてんじゃん」
ダンは目ざとくティナの手の甲にできた擦り傷を見つけ、言った。
「ありがと、助けてくれて。あと栗も拾ってくれて・・・」
「それよかこのケガ。あと足首もひねったりしてんじゃないの?ひょっとして」
「だ・・・・大丈夫だって!このくらい。すぐ治・・・・・」
弁解も虚しく、手を振って誤魔化しているとその手を取られ、ダンの口元に持っていかれた。
「消毒」
そう言って手の甲にできた傷に、唇を触れさせた。
「・・・・・っ!」
「ん、いったんこれで良しっと。そいじゃ診療所まで行こうか、子猫ちゃん」
しばらくぼーっとしていたティナに、ダンは微笑しながらからかい始めた。
「何?足首にも消毒して欲しいって?・・・・・ワガママだねぇ」
「ち・・・・違うって!!!・・・ダンのばかっ」
ティナが顔を真っ赤にして反抗すると、ダンはカラカラ笑いながらもティナの手を
引っ張って診療所への道を歩き始めた。
「・・・うん、軽い捻挫だね。大したことはないよ」
「・・・・・すみません、ドクター」
「ん?」
「いえ、確か前にもこんなことあってお世話になっちゃったし・・・」
「ああ、アレね。ふふふっ、ブルーくんが珍しく取り乱してたからびっくりしたよ」
「・・・ブルーが・・・・・」
「よし、これでもう大丈夫。2〜3日すればこの包帯も取れる状態になるよ」
「あ、ありがとうございました」
「じゃ、ダンくん。送りも宜しくね」
「はいはい、わかってるさ」
ほんのお礼にティナは収穫した栗を少しだけ、ドクターに渡してきた。
ダンが持ってくれているせいもあり、今は少しだけ栗を抱える腕に余裕ができている。
自宅までの道のり、ティナは話の話題に困っていた。
そして考えなしに話題をふる。
「最近見かけなかったけど、ダンどこに行ってたの?」
「・・・・・・・ん〜」
「・・・・・・・・・」
「・・・知りたい?」
「う、うん。一応」
「一応ってか。・・・・・・・ちょっとね、女の子のところに」
「・・・・・へ」
その言葉に反応して、ティナは栗をまた数個、ぼとぼとと落とした。
「あ、あ〜あ〜。駄目じゃん落としたら」
「女の子・・・?」
「思ったんだけどさ、毬を落としてから運んだ方が良かったんじゃない?肌に刺さると痛いよコレ」
「・・・・・ふーん・・・それだけの為に5日間も村からいなくなってたんだ」
「え?」
歩調を合わせながらダンと並んで歩いていたティナは、一気にペースをあげて早く歩き出した。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ子猫ちゃん!今のは・・・・」
「・・・・・・何?」
「冗談だって!街に職探しに行ってただけでっ」
「・・・へ?」
「まあ、そりゃーさ、柄にもないことしたと思うけどね。やっぱ肌に合わなくて、戻って来たってわけ。それだけ」
「あ、あの・・・・・私」
「カッコ悪かったから女の子って言っただけだよ。・・・そこまで真に受けるとは思わなくて・・・・・あ」
「な、何?」
「・・・・・ひょっとして、ヤキモチ?」
「バカッ!そんな訳ないでしょ!!!」
ふいっとダンからそっぽを向いて、いつの間にか着いていた自分の家のドアをガチャリと開ける。
その後、ティナは何だかんだ言って助けてくれたダンに「バカ」連発はさすがに悪いと思い、
できたての栗ご飯をワイナリーまで届けに行った。
『・・・・・ひょっとして、ヤキモチ?』
・・・そんなこと、あるはずない。
ティナはダンのその言葉が忘れられず、ずっと頭の中をグルグル駆けめぐっていた。
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